十八歳の花嫁
ラブホテルでの愛実の香りを思い出す。
女の匂いを嗅いだだけで、下半身に力が漲(みなぎ)ったのは……何年ぶりだろう。
「ソープ嬢になるところを助けてやったんだ。あの娘も喜んで身体を開くだろう。そのためなら、愛の言葉くらい囁いてやるさ」
「彼女はこれまでの女性とは違うんです。本当に、家族のために……」
あまりに熱心な態度に、美馬はからかい半分に言ってみる。
「どうした? いい歳をして、まさか、あんな小娘に惚れたわけじゃあるまい?」
「……いえ、私は……」
瀬崎は視線を落とし、口を閉ざした。
この、瀬崎幸次郎も苦労人だ。
美馬より二歳年上だが大学では同級だった。
彼の実家は北海道で牧場をやっている。兄弟が多く次男坊の彼は自力で学費を稼ぎ、その後大学に進学した。
第一秘書の給料は、小さな会社の役員並はある。
だが決して贅沢はせず、今も相当な額の仕送りを続けているはずだ。
瀬崎は美馬と違い、遊びで女と付き合うことは一切ない。
調査段階で不遇な愛実に同情した可能性は高い。
美馬は常々、瀬崎になら女を譲ってもいいと思ってきた。女はみんな似たようなものだ。この男が欲しいと言うなら、自分は手を引いてやろう、と。
――仕方ない。
愛実には手を出さず、時期がくれば瀬崎に……。
そこまで考えたとき、胸の奥で何かがストップをかけた。
「残念……だったな。あの娘は、鬼婆に目をつけられた哀れな生け贄だ。婆さんは彼女を、俺も含めて畜生の餌にする気だぞ。欲しければ自力で攫え。おまえに、守り切る自信があるなら、な」
一介の秘書に、美馬に逆らう力などあるはずがない。
瀬崎は何も答えず、眼鏡の奥の目を細める。
その視線は哀れみに満ちていて……わけもなく美馬は苛立ち、押しつぶすように煙草の火を消した。