十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
愛実が幼い姉弟に我が身を映したように、藤臣もまた、自分の姿をそこに見ていた。
『愛実さんが和威さんとの結婚を承知してくれましたよ。ああ、ご安心なさい。あなたを次期社長として変わらず推挙しましょう。そのためには……誠実な印象を残しておくことが大事でしょうねえ。お子さんのために、新しい美馬邸を建てて移られるといいわ。会社のことはよろしくお願いしますよ。お元気でね、藤臣さん』
ほんの数時間前、弥生が勝ち誇った顔で藤臣に言った台詞である。
藤臣はひと言も言い返すことができず、無言で美馬邸を飛び出し、愛実のもとに駆けつけた。
不満があるなら真っ先に、藤臣に話してくれると思っていた。
まさか、弥生を頼るとは思ってもみなかった。そして愛実であれば、藤臣のどんな過去も罪も許してくれると信じていたのに。
愛実との結婚を白紙に戻したいと思ったことは一度もない。
今となっては会社の実権も、愛実を守るために維持したいだけだった。
だが、弥生の姿を見るたび、あの美馬家の人間と話すたび、藤臣の中に憎しみが甦る。
三十年間、積もり積もった恨みが錘(おもり)のように、藤臣を美馬という地獄に引き摺り込む。
『会社のことはよろしくお願いしますよ』
弥生の声がいつまでも耳の奥でこだましていた。
(しかし……恭子はなんでこんな真似を?)
睡眠薬の服用が藤臣のせいであれば申し訳ないと思う。
だが、幼い子供たちを残して、万一のときはどうするつもりだったのか。ふたりの姿を見ていると、腹立たしさすら覚える。
そのとき、愛実が何を思ったのか子供たちの傍に歩み寄った。
「大丈夫よ。お母さんは間違えて薬を飲んじゃっただけだから……すぐによくなるって」
ベンチに座ったふたりの前に屈み込み、愛実は笑顔で話しかけた。