十八歳の花嫁

「和威との結婚だが……無理にする必要はない」

「でも、契約書が」

「なんとでもなる。俺が弥生と話して決着をつける。元々、美馬家の問題だったんだ。それに君を巻き込んでしまった。……後悔してる。すまない」


それは今まで聞いたことがないほど、頼りなげな藤臣の声だった。


「そんな、そんなふうに言わないでください。はじめから間違いだった、みたいに……」

「間違いだったんだ、はじめから。弥生の策略を知って、誰よりも先に君を見つけ……俺のモノにするつもりだった。だがその前に、弥生に手を打たれて……。後は知ってのとおりだ。美馬の屋敷が欲しかった、そして、君を抱きたかった。手段が違っただけで、俺も信一郎の同類だ」


藤臣の言葉とともに、車は西園寺邸の前に停まった。


「美馬の人間はこんなクズばっかりなんだ。契約書は俺が必ず無効にする。だから……」

「ひとつだけ教えてください。“愛してる”って言葉は本当でしたか?」


愛実の質問に一呼吸置いて、藤臣は答えた。


「――俺に相談もなく、花婿を替えたのは君だ」

「わたしは……藤臣さんを愛してました。でもお子さんの存在を放置して、わたしと結婚することは立場的に問題になる、と。それに、弥生さまとの確執を知った今、これ以上、藤臣さんひとりに迷惑はかけられません」


藤臣と結婚するのだから、何も問題は起こらない。
母が交わした契約書の内容を知っても、愛実はそれほど大変なことだとは思わなかった。

弥生にしても、まさかこんな直前で藤臣に隠し子問題が持ち上がるとは、想像できなかっただろう。

だが……。

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