十八歳の花嫁
「藤臣さん……」
愛実はくるっと背を向ける。
車のドアを開け、外に飛び出した。
そしてドアを閉める間際、車内を覗き込み、
「――ありがとうございました」
愛実は精いっぱいの笑顔を見せる。
そして彼女は身を翻し、門に向かって歩き始めた。
本当に抱きたいだけなら、いつだって何度だってチャンスはあった。
今だってそうだ。“愛してる”と言われたら、明日のことも考えず愛実は彼に身を投げ出すだろう。
真実(ほんとう)の藤臣は、家族思いで誠実で温かい人なのだ。
そして今の愛実には、彼に何ひとつ与えてあげることができない。
愛実がどれほど母に困っても、勝手にしろとは言えないように……。
彼は絵美を見捨てては幸福になれない。
彼女が門に手をかけたとき、背後に足音が聞こえた。
愛実が振り向く寸前、力いっぱい抱き締められ――その香りは間違いなく藤臣だった。
「藤、臣……さん?」
「愛実……どうか、幸せに」
それは、ほんの一瞬のこと。
愛実は微動だにできず……。
嵐が過ぎ去るように藤臣は立ち去り、車のエンジン音が聞こえた。
愛実は崩れ落ちるように座り込み、古い木製の門に身体を預け、泣き続けたのだった。