十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
娘を自分と同じような目にだけは遭わせたくない。
恭子が何を藤臣に望んでいるのか、あらためて話し合う必要があるだろう。
そして愛実は……。
彼女の人生にもう一度選択肢を与えてやりたい、と思った。
強引に巻き込んでしまったせめてもの罪滅ぼしに……。たとえ、美馬の屋敷や社長の椅子を諦めることになっても。
彼はこのとき、初めて十五年間積み上げた復讐心を手放した。
だが、もう遅かったのだ。
藤臣は通りかかった橋の上に車を停め、外に出た。
どの辺りを走っているのか、自分でも見当がつかない。
ただ、二車線の道路に車は数えるほどしか走っておらず、欄干沿いの歩道に一定の間隔で灯る街灯が物悲しさを醸し出していた。
泥沼と化した藤臣の人生に、これ以上愛実を引き摺り込むことはできない。
そして愛実が和威との結婚を望むなら、和威が美馬家の主となれるようサポートするだけだ。
決して忘れることなどできないと思った憎しみは、手放した瞬間――形を失い霧消した。
藤臣は愛実から返されたリングケースを開ける。
そしてダイヤの光に目を細めた直後、川に投げ捨てた。
『“愛してる”の言葉は全部嘘だよ』
そう言葉にしたとき、やっと彼は気づいたのだ。
愛実に言い続けた“愛してる”が心からの言葉だったことに。
かけがえのないものを失った。
指が白くなるほど、藤臣は強く欄干を握り締める。
車のヘッドライトに映し出された背中は、いつまでも、小刻みに震えていた――。