十八歳の花嫁

第12話 運命

第12話 運命





「姉さん。姉さんは本当にあの人が好きなわけ?」


それは何度目かの質問だった。
東部デパートから戻り、愛実は尚樹にだけ、『昨夜の彼と、結婚することになるかもしれない』と告げた。


「姉さんが好きで結婚したいならいい。でも、もしお金のためなら……高校には行かない。僕も働くから……そうしたら、母さんとは離れよう。僕ら四人で」


尚樹は母に失望していた。
あからさまに反抗する時もある。最近では真美も同じように言い始めた。

だが母は、両親や夫に甘やかされて生きてきて、現実と向き合うことのできない女性なのだ。


「お母さんはまだ、お父さんのことが忘れられないだけよ。わたしたちのことだって嫌いなわけじゃない」

「でも、姉さんに苦労ばっかり……」

「小学生になったばかりの慎也には、お母さんが必要よ。お願い、尚樹。姉さんは結婚しても、できる限り様子を見に戻って来るから。だから……何も聞かずに、姉さんのことを信じて」


愛実は美馬の申し出を受けることに決めた。

他にも事情はありそうだが、祖母のため、という彼の言葉を信じることにしたのだ。

ただ……。


『私には十代の少女と遊ぶ趣味はない』


それはありがたい言葉のはずなのに。

車から引っ張り出し助けてくれた。泣きじゃくる愛実の頬を拭ってくれた。あの強く大きな手が忘れられない。



――幾重にも張られた罠に向かい、運命の歯車は廻り始めた。

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