十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


「大事に至らなくてよかったです」


瀬崎は一旦子供たちをホテルに引き上げさせ、恭子の退院手続きのため、再度病院を訪れていた。


彼が恭子から相談を受けたのは五月のこと。
瀬崎は最初、恭子は金目当てに違いない、と考えた。
藤臣に知らせる必要もない。DNA鑑定を要求すればアッサリ引き下がるだろう、そう思ったのだ。
しかし、恭子は鑑定をあっさり了承する。

そのとき初めて、藤臣が瀬崎にも内緒で恭子をデパートに採用していたことを知った。


『四年前、夫に出て行かれ、仕事とお金に困って美馬社長に相談したんです。すると、助けてくださって……。私、十年前のことを後悔しました。今さら、やり直したいなんて言えませんけど……。でも、絵美のことだけは話しておかなくては、と』


藤臣に知らせるのは鑑定結果が出た後でいい。
瀬崎はそう判断し、藤臣と一志の親子鑑定を頼んだ外国の会社に依頼したのである。
そこにはまだ藤臣のDNAサンプルが保存してあった。

そして結果は……。


瀬崎にとって、愛実は本当に健気な少女だった。
藤臣の言葉をすべて信じ、頼りきっている。

一方、藤臣もこれまでとはまるで印象が違った。
潰すために美馬の家屋敷と会社を手に入れる、そんな妄執から一刻も早く目を覚まして欲しいと、瀬崎は常に願っていた。
藤臣は一志とは違う。
本来の彼は、愛する者のため必死になれる人間なのだ。

瀬崎の実家は農家をしている。
決して裕福ではなく、しかも彼は兄弟が多い。数年前、瀬崎の母が心筋梗塞で倒れた。すぐに手術が必要だと言われたとき、そのすべての手配をしてくれたのが藤臣だった。

彼にとって藤臣は親友であり、信頼できる上司であり、手のかかる弟でもあり……。

怒りや憎しみは人が立ち上がる力になる。
だが、そこからは何も生まれない。それを藤臣に知って欲しかった。

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