十八歳の花嫁
瀬崎は何度となく藤臣に尋ねた。
愛実を本当に愛しているのだろう、と。
だが、
『俺は誰も愛せない。愛実のことは一生騙すつもりでいる』
そんな言葉でごまかし続ける。
その答えに、瀬崎は藤臣を庇うことをやめたのだ。
逆に彼を追い詰め、最後の最後で本当に欲しいものを選んでもらおうと考えた。
愛する女性と我が子を天秤にかけるのはつらいはずだ。それでも『つらい』と認めるところから、藤臣に気づいて欲しかった。
瀬崎は藤臣が小細工できないタイミングを見計らい、マスコミを使った。
一部の記者が暴走したせいで子供を巻き込んでしまったのが計算外だ。
そして、結果的に藤臣が子供を選んだとき、愛実の被害を最小限に抑えるため和威に自覚を促した。
彼女が藤臣の金銭的援助を受け取ってくれればいい。
だが、潔癖な愛実が破談になった相手の援助を受けるとは思えなかったからだ。
「社長は娘さんが望めば……実の父親として認めてもらえるよう、努力するとおっしゃっておられました。鑑定結果を提出し、法律の特例を適用してもらうよう働きかけたい、と」
DNA鑑定の精度が上がり、子供の父親が明らかに違うと判断された場合、特例として実父の名前が変わったという判例がある。
藤臣は本気で子供を取り戻すつもりのようだ。
喜ぶかと思った恭子はうつむいたまま顔も上げず、
「あの……ご結婚は……」
「婚約は解消されました。一連の騒動の責任を取って、すべての役職を辞されるそうです。しばらく東京を離れることになりそうですが……。ご一家やお嬢さんのことはちゃんと考えておられますので、ご安心ください」
瀬崎は「退院の手続きをしてきます」そう言って病室を後にした。
もう夕方と呼ぶに相応しい時間帯だ。
普通ならこんな時間に手続きはできないものだが、多少の無理を頼むためにこの病院に運び込んだのである。
エレベーターに乗ろうとしたとき、瀬崎は恭子の保険証を預かっていないことに気がついた。
引き返し、病室のドアをノックして、ほぼ同時にスライドさせる。
室内に目を向けた瞬間――恭子は窓枠に足をかけ、飛び降りようとしていたのだった。