十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆
「美馬さんを選んでいたらよかったのかもしれない。でも、私は石川を愛していたんです――」
窓から身を乗り出す恭子を室内に引き摺り込む。
そして瀬崎は、信じられない告白を聞いたのだった。
恭子は生活に困窮して藤臣を頼ってしまった。
そして彼の誠意を知るものの……。
人の心は思いどおりに動かせるものではない。どれほど酷い男であっても、不実で父親に相応しくない男であっても、恭子は夫に戻って欲しいと願っていた。
そんな別れた妻の本心を知る石川は、養育費を払うどころか金を無心してきたのだ。
そして先月、恭子は石川から『やり直したい』と言われた。
一もニもなく受け入れる恭子に、石川はある条件を突きつける。
『でも借金がある。いや、おまえに払ってくれとは言わない。返すアテはあるんだ。もちろん、おまえにも協力してもらう必要があるんだけど……』
それは美馬を罠に嵌める協力だった。
十年前、恭子と逃げたことで石川は職を失い、彼の人生はホワイトカラーから派遣社員に落とされた。
愛を選んだと言えば聞こえはよいが、貧しい生活を“愛”のひと言で乗り越えられる期間は、そう長くはない。
石川は藤臣だけでなく、恭子も、娘の絵美すら恨み始めたのだ。
恭子と別れても、彼の人生が浮上することはなかった。『あいつのせいで』その思いが人生の錘(おもり)になっているとは、なかなか気づかないものである。
そこに、甘い餌を投げ込まれたら……。
石川はそれに飛びつき、恭子や子供たちをも引っ張り込んだ。
まず、いきなり藤臣に訴えてはダメだ。
同意のもとに鑑定などしては、すぐに真実が明らかになる。秘書の瀬崎を信用させ、彼が藤臣に内緒で鑑定に持ち込むようにする必要がある、と。
瀬崎は案の定、同じ会社に鑑定を依頼した。
そして石川の言ったとおり、絵美が藤臣の実子と鑑定されて、恭子は恐ろしくなる。