十八歳の花嫁

数値が不正操作されているならともかく、丸々となると、故意ではなく過失と取られる可能性が高い。
瀬崎の知る弁護士はそう言った。

それだけではない。
瀬崎は秘書の立場を利用して、本人の承諾を得ずに鑑定を依頼した。
もちろん、藤臣の名前で。

逆に、違法性を追求されるなら瀬崎のほうになる、と。


「一晩では担当者の居所を突き止めることはできませんでした。ですが、必ず見つけ出します。そして、東さんの元夫に金を払った人間の名前も」


そんな瀬崎に車の中から弥生が言った。


「おやおや、威勢のよろしいこと。秘書の分際で、それ以上余計なことをすれば、ご家族を泣かせることになりますよ」


弥生の言葉は脅迫にも等しい。
瀬崎の実家である小規模農家など、彼女にかかれば一捻りであろう。

だが、瀬崎は弥生の言葉を無視し、和威に向かって訴え続けた。


「和威様、社長と連絡が取れないのです。社長は何度も愛実さんを愛していないとおっしゃった。でも、本当は違ったはずです」


『美馬を出る』


藤臣からそう告げられたとき、瀬崎は驚いた。
まさか、これほど劇的に復讐を諦めるとは思ってもいない。

そのとき、彼の胸に動揺が走った。


――藤臣から愛する女性を引き離して、本当によかったのか?


藤臣は散々女性を振り回し、何人も泣かせてきた。

愛実だけは傷つけないで欲しい。

何度も頼む瀬崎に藤臣は、止められるものなら止めてみろ、と言わんばかりの挑発を口にした。
瀬崎の本心は、藤臣を止めたかっただけかもしれない。

――だが、実子であるなら。その子が不遇な立場にいるなら、父親として負うべき責任があるはずだ。

その正義が、瀬崎の行動を正当化した。


「私は自分が正しいと思うことをしました。でも、今は間違っていたと思います。その責任は取るつもりでいます。どうか和威様……今、愛実さんと結婚することが正しいのかどうか、もう一度考えてみてください! どうかっ」


瀬崎は警備員により車から引き剥がされ、彼の鼻先でドアは閉まった。

走り去るリムジンの後姿を、やるせない思いで見送る瀬崎だった。

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