十八歳の花嫁
「弥生婆さんも、また随分とえげつないやり方をしたもんだ。まあ、鬼婆のすることだからな。どうせおまえさんも、最初から信用してなかったんだろ?」
暁の質問に藤臣は答えなかった。
絵美が実子であるとは思えない。
さりとて鑑定結果を“直感”で無視することはできず……。
弥生はそこも計算していたのだろう。
藤臣がわずかでも可能性があれば、我が子を見捨てることはない、と。
「丸一日あったんだ。逆にマスコミ使って、鬼婆のやり口を暴露してやればよかったんじゃないのか? 向こうも必死になって潰しに来るだろうが、正面から遣り合えば、この屋敷から追い出すことだって」
「もうやめよう、暁さん。美馬を潰す手駒に、これ以上俺を利用しないでくれ」
「人聞きの悪いことを……」
酔っているとは思えない藤臣の冷静な声に、暁は言葉を失う。
「ああ、わかっている。俺が勝手にやってきたことだ。復讐心を燃やして、美馬の全部を手に入れようとした。暁さんはそれぞれに手を貸し、味方だと思わせて、少しずつ奴らの力を削ったんだ。結果的に俺が美馬を潰すと知っていたからだろう?」
藤臣の養父母、佐和子と弘明の結婚は一志が強制したものだった。
弘明の前妻――暁の母は癌を患い、何度も手術と再発を繰り返し、結果的に若くして亡くなった。
その後しばらくして、弘明は一志の腹心となり、目覚しい働きをするようになったのだ。
それは情け容赦ないもので……。
かつての弘明を知る者から『彼は妻と一緒に良心を埋葬した』といわれたほどだ。
藤臣はその評判を信じ、金と地位を得るために佐和子と結婚した男と思い込んでいた。
「弘明さんは、関連会社の経理部にいた。そして妻の治療費を捻出するため、会社の金に手をつけたんだ」
藤臣がそう言った瞬間、暁の顔色が変わった。
これまでのような半分ふざけた口調が消え、暁は真っ青になり叫んだ。
「二十五年以上前のことだ! 時効は過ぎてるし、全額完済してる。なのに……あの男は、俺の将来を引き合いに出して、父さんを縛り付けたんだ!」