十八歳の花嫁
弘明は妻を亡くした後、上司に横領の事実を申し出た。
金は何年かかっても返済する、ひとり息子のために自分が服役するわけにはいかない。どうか、警察に被害届を出すのは許して欲しい、と願い出る。
一志はそんな弘明を拾い上げた。
吸収合併とは名ばかりの会社乗っ取りや暴力団紛いの地上げ。バブルがはじけた後は、リストラ担当として容赦なくクビを切らせた。
『逆らうなら警察に被害届を出す。おまえの息子は犯罪者の子供と呼ばれるぞ』
それは全額完済しても同じだった。
公訴時効が過ぎた後も、服役は免れても罪は消えない、そう言って一志は弘明に人が嫌がる仕事を押し付けた。
その最大のものが、佐和子との結婚だった。
「ちょうどあのころ、父さんは覚悟を決めて、付き合っていた女性と結婚する気だった。相手も三十代半ばになっていたそうで、妊娠したって聞いてね」
暁には異母妹がふたり――十四歳と十一歳の少女がいる。
弘明は子供たちの母親・市橋みさきと別れないことを条件に、一志の命令に応じたという。
その点でも、藤臣は弘明を誤解していた。
彼が好色な男だから、愛人としてみさきを確保しておきたいのだ、と。
そうでない、と知ったとき、藤臣はいかに自分が一志に毒されていたかを思い知る。
この世の中には人を利用する悪党と、利用される愚か者の二種類しか存在しないと、本気で思っていた、まさしく愚かな自分を。
「市橋さんでしたね。彼女はひとりで子供を産んで育てると言い姿を消した。弘明さんは同じ苦労するならと、呼び戻したんだ。ふたりは愛し合っていたから、苦しくても寄り添って生きる道を選んだ」
「それもこれもあのクソ爺のせいだ! 父さんの気持ちを知って、俺だけじゃなく、みさきさんまで取り引き材料にしたんだぞ。それだけじゃない、俺が朋美と関係したときだって――」
一志は、暁と朋美の結婚を認めると言い、暁に条件を出した。
暁は承諾しアメリカに渡ったのだ。彼がすべてをクリアして意気揚々と帰国したとき、朋美は別の男の妻となり、暁には違う花嫁が用意されていた。
そして、父・弘明を縛った鎖で今度は暁を繋いだ。