十八歳の花嫁
そこには、化粧もせず着古した普段着を身につけたみすぼらしい少女がいた。
大人の美馬にも高級外車にも似合わない。そんな自分の姿に、愛実は恥ずかしくなる。
うつむく愛実の仕草に、美馬も気づいたらしい。
「明日、学校が終わったらうちのデパートに来るといい」
「え……あの、いえ。夕方からバイトが……」
「それに関しては、今夜中にいい返事がもらえると思ってるんだけどね」
「それは……」
――もう、この場で返事をしてしまおうか。
愛実がそう思ったときだった。
短い舌打ちが頭上から聞こえた。
見上げると……美馬の表情が曇っている。彼は愛実ではなく、ポルシェの真後ろに停車した車を凝視していた。
車は黒のメルセデス・ベンツ、Sクラス。ベンツから下りて来たのは初老の紳士と、美馬より少し年上だろうか……かなりソフトな印象の男性だった。
「さすがだな藤臣くん。君が一番乗りかい? 抜け駆けされたんじゃ信一郎くんたちが怒るだろうな」
若い方の男性がそう言った。
「なんのことかわかりませんね。抜け駆けなんて……人聞きの悪いことをおっしゃらないでください」
美馬から先ほどまでの笑顔が消え、憮然たる面持ちでその男性に答える。
男性は美馬の返答を軽く流し、愛実に手を差し出した。
「はじめまして、お嬢さん。君がシンデレラかい?」
「は? あの……」
「僕は大川暁(おおかわあきら)と言います。美馬物流に勤めていてね、美馬家とは姻戚関係にあるんだ。藤臣くんとも仲よくさせてもらってるんだよ」
暁はまるで営業マンのように、屈託ない顔つきでにこやかに話しかけてくる。
だが、愛実には何がどうなっているのか全くわからない。