十八歳の花嫁
「そもそもの原因は、父さんが罪を犯したせいだと言うんだろうな。だが、最長でも十年の懲役刑に、もう二十五年も服役してるようなものだ! 美馬という檻に入れられたまま、今度はあの鬼婆だ! もし信一郎が跡を継げば、きっと父も俺も終身刑になる。その前に藤臣、何としてもおまえに継いでもらいたかった。この家を潰すために」
藤臣は暁の中に自分自身を見ていた。
だが、暁は藤臣とは違う。
彼は若いうちに朋美と出会い、ふたりは不器用ながらも愛し合ってきた。それがたとえ、一志に対する腹いせだとしても。
「だったらもうやめましょう。美馬一志は死んだんだ。長く繋がれていたから、気づかないだけです。もう、弘明さんや暁さんを繋ぐ鎖はどこにもない。弥生婆さんが欲しいのはこの屋敷だけだ。あの人も結局、憎しみに縛られ、この家で終身刑を送っただけの人間ですよ」
「そうしてすべてを和威に押し付けて、自分は綺麗に退場かい?」
暁は余裕を取り戻したのか、口元に笑みを浮かべた。
だが、一志に対する怒りはそう簡単には鎮まらないようだ。
彼は藤臣からウィスキーボトルを奪い取り、封を切ると直接口を付けて飲み始める。
「恭子のことは氷山の一角なんだ。俺は……悪事を働き過ぎた。どうせ一志と一緒に地獄に堕ちるんだから、ってね。俺も弥生婆さんと変わりない。自分で終身刑を選んだ愚か者だ」
藤臣はグラスにウィスキーを注ぎ込み、口に運んだ。
「和威なら……愛実がついていればきっと、この家を牢獄から家庭に変えてくれる。俺は、愛実に相応しくない。いつ、後ろから刺されるかわからないような男は……」
そこまで言うと藤臣は立ち上がった。
いくら飲んでも頭の中は冴えたままだが、身体はそうでもないらしい。
ふらつく足でどうにか真っ直ぐ立ち、暁の胸倉を掴んだ。
暁が手にしたウィスキーボトルが床に落ち、派手な音を立てて割れる。その芳醇な香りは皮膚に浸透し、飲むより早く酔いが回りそうだった。
「暁さんは、二十歳のころから朋美に本気だったんだろう!? だったら、グズグズしてないで攫って来い!」
「ならおまえも行けよ! 酔ってくだを巻いてる暇があるんなら、式場から花嫁を掻っ攫って来たらどうなんだ!?」
「もう遅い。……もっと早く愛実に会って、まともな生き方をしたかった。俺の人生でただひとつの善行は、愛実を抱かなかったことだ」
いっそ抱いていたら、愛実のすべてを自分のものにしていたら――未来は変わっていたかもしれない。
藤臣は少しだけ、たったひとつの善行を悔いた。