十八歳の花嫁
そのとき、和威の頬に涙が伝った。
「和威……さん?」
「……助けて……くれ。本当はわかっているんだ。でも……逃げられない……」
ウェディングマーチが鳴り響く中、愛実と周囲の人間にだけ聞こえる声で和威は呟く。
「おばあ様のやっていることは、人の心を踏みにじる行為だと。不幸の連鎖だとわかっていて……僕には断ち切る勇気がない」
和威は両手を組んでいた。
まるで神に祈るように。
指の爪は肌に食い込み、力を入れ過ぎて白くなっている。
そして彼の声は、水に溺れながら、懸命に助けを求める叫びに聞こえた。
出入り口に程近い辺りから、ガヤガヤとざわめきが広がる。
声は聞こえないまでも、和威の異変を察した数人の列席者が騒ぎ始めたようだ。
係員も相手が一般の客であれば、テキパキと判断して動いたのかもしれない。だが、今回の挙式披露宴に関して美馬家に振り回されっ放しの彼らである。
それでも状況を考え、花嫁には充分に気を使っていた。
その分、花婿の挙動にまでは注意がいかなかったとしても仕方がないだろう。
全く歩き出す気配のない新郎新婦に、音楽の担当者も気づいたらしい。
ウェディングマーチがピタリと止まり、ざわめきが一層大きくなった。
「和威さん! あなたはいったい何をしているのです。これ以上恥を掻かすようなら、わたくしにも考えがありますよ!」
杖をつき、バージンロードを逆に歩いてきたのは弥生だった。
関係者は困ったような顔をしているが、彼女に意見する者など、この場にいようはずがない。
そんな弥生を恨めしそうに睨み、和威は精いっぱいの抵抗を見せた。
「おばあ様が藤臣さんを罠にはめたんだ。藤臣さんの子供じゃないのを承知で、東さんまで騙して……。この隠し子騒動を仕組んだのは、おばあ様なんだ!」