十八歳の花嫁

愛実の毅然とした態度に弥生は眉を顰めた。

長い年月、彼女に真っ向から逆らう人間などいなかったに違いない。


「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。取引は正当なものですよ。弁護士に任せたのですからね。わたくしはあなた方一家を助けようとしただけです。感謝されこそすれ……」

「本当にそう思っていらっしゃいますか?」

「――どういう意味です?」


弥生は目を細め愛実に聞き直す。


「だったらどうして、実の孫である和威さんの心を平気で傷つけるんですか? どうして、こんなに苦しそうな和威さんを見て、笑っていられるんです? 本当に、少しでもおじい様のことを想ってくれたなら……これ以上、誰かの心を踏みにじらないでください!」


和威を助けたいと思った。

愛実が初めて美馬邸を訪れたとき、緊張する彼女に朴訥でも誠実に話しかけ、笑わせようとしてくれた優しい人なのだ。
愛実と藤臣の関係を誤解し、不実な藤臣を責めてくれたのも和威だった。

だが、鋼の神経をした弥生に愛実の願いなど届くはずもなく……。

弥生は鼻で笑うと、


「お話になりませんね。親のいない和威さんや藤臣さんに充分な物を与え、教育を受けさせてやったのはわたくしですよ。後継者にしようというのに、何が不満なのか。あなたもそうですよ」


その目は冷たく、愛実の心臓を凍りつかせるように鈍く光る。


次の瞬間、愛実の母が飛び出してきて娘の頬を打った。

派手な音がチャペルに響き――「も、申し訳ありません。娘には私から」母は信じられないほど頭を下げ、愛実にも詫びるように言う。


「嫌です! わたしは間違ったことは言ってません。愛情も幸せも、お金や権力じゃ絶対に買えない! そのことは、弥生さまが一番ご存じじゃないですか!? 違うとおっしゃるなら、弥生さまが祖父を愛していたというのは嘘です。わたしたちを助けようとした、という言葉も。誰かのためじゃなく、それは――」

「お黙りなさい!!」


弥生は目を剥き、怒りに任せて杖を振り上げた!

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