十八歳の花嫁

「早く乗って」


軽四自動車を運転しているのは藤臣の秘書、奥村由佳だった。


「あの、どうして?」

「いいから、早く」


後部座席に乗り込み、ホテルから離れるまで愛実は身を隠していた。

由佳は花婿交代を聞いてすぐ、別の重役秘書を命じられたという。
藤臣は自分に付いていた人間が降格や解雇されないよう、すべて手配を済ませていた。
おそらく事前に、自分の立場が危なくなったときのことを準備していたのだろう、と由佳は言う。


「あの、どうしてここに? どうして、わたしを助けてくださったんですか?」

「あんなに自信満々に“理想は捨てない” “後悔しない”って言ってた世間知らずのお姫様の顔を見てみたいと思って。どんな顔をして、金のために他の男と結婚するのかな、ってね」


由佳は相変わらず隙のないスーツ姿である。


「専務のことだから、今ごろ、新しい女のベッドに飛び込んでるかもよ。あのルックスならホストもできそうよね。ま、性格的に無理だろうけど」


クスクス笑いながら由佳は愛実をからかっているようだ。

愛実は不安を抱きながらも、


「もう二度と、そんないい加減なことはしないと約束してくれました! だから、わたしは信じます」


ドレスを握り締め、自分に言い聞かせるよう語気を強めたのだった。

< 339 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop