十八歳の花嫁

第15話 希望

第15話 希望





ふと気づけば、部屋の中に暁はいなかった。
裏庭は夜の闇に包まれ、美馬邸そのものが死んだように眠って見える。

藤臣は頭を振りつつ起き上がった。
睡眠不足と酔いで、気を失うように眠っていたらしい。
時計を見るとすでに十二時を回っている。深夜というにふさわしい時間だった。


(式も披露宴も終わった、か。ふたりは今ごろ……)


あられもない愛実の姿を想像して、藤臣は再びボトルに手を伸ばす。

しかし、周囲に酒らしきものは一切ない。
どうやら、酔って倒れこんだ彼を見かねて、暁が始末して行ったようだ。


「ったく、余計なことをしやがって!」


奥歯を噛み締め、藤臣はひとりごちた。

今日くらい、正体不明になるまで酔わなくてはやってられない。

何度も……何度も結婚式をぶち壊しに行こうかと考えた。
だが、壊してどうなるのだろう?
戸惑いながらも藤臣は“我が子”を選んだ。実際のところ、血の繋がった娘ではなかった、というのは結果論である。
全部は選べないと言われたとき、藤臣は何をおいても愛実の手を取ることができなかった。

そして愛実も……。

家族を放り出し、藤臣を信じて待つとは言ってはくれなかったのだ。


(違った……俺が都合のいいことしか言わず、綺麗な言葉だけで、愛実をごまかそうとしたからだ)


すべてを告げて待って欲しいと言えば、愛実なら信じて許してくれただろう。
なのに、隠そうとした。絵美が実子である可能性を隠し、嘘の上に嘘を塗り、どんどん真実を見えなくして……。
愛実が混乱して自ら答えを出しても仕方ない。

挙句の果てに逃げ出した。

暁の言ったとおり、絵美が実子でないと知ったとき、戦う意思があれば打てる手はあったのかもしれない。

だが……。
パンドラの箱を開けてしまった藤臣の中に、残っていたのは“希望”ではなく“絶望”だった。

< 341 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop