十八歳の花嫁

価値のないものを追い続け、意味のない人生を送って来た。

三十年間積み上げた恨みは汚泥となり、藤臣の中に蓄積している。

それらすべてを洗い流し、人生をやり直そうという気力など、どこを探しても残ってはいなかった。

それでも、明日には立ち上がらなければならない。

せめて表向きだけでも……。
愛実と和威に祝いの言葉を伝え、何も気にしていない素振りをしなければ。

恭子一家の今後も考える責任が藤臣にはある。
弥生は情け容赦なく、十歳の少女をも巻き込んだ。絵美自身が大人になり、母親の嘘を理解できるようになるまで、藤臣は父親の役を降りるつもりはなかった。

過去は消せなくても、未来までも土足で汚しながら生きて行く必要はない。
今は無理でも、せめていつか……。
愛実が困ったときに、今度こそ支えられるような男になりたい。


(でも今夜は……今夜だけはカンベンしてくれ)


藤臣は立ち上がると寝室を出た。

中庭の廊下を通り抜け、リビングに足を踏み入れる。

サイドボードに随分昔から置かれたままのアルコールが残っていたはずだ。
この際、ブランデーでもワインでもいい。とりあえず酔っ払って、自分の無様さ、不甲斐なさを忘れたかった。


カタン……。


物音が玄関のほうから聞こえた気がした。

この洋館は母屋から離れている。
正門より裏門に近いが、警備システムから考えて、泥棒が入り込める場所ではなかった。ましてや改装中の館に貴重品が置かれているはずがないだろう。


(糸井か? それとも、暁さんが戻って来たのか?)


藤臣はリビングから玄関に向かう廊下を進んだ。

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