十八歳の花嫁
第16話 無垢
第16話 無垢
その声はあまりにも現実的で、藤臣は咄嗟に目を見開いた。
酔いと疲労に霞んだ目を二、三度しばたかせる。
それでも消えない愛実の姿を凝視しながら、藤臣は声を押し出した。
「い……つみ? 愛実、なのか?」
「……はい……」
「どうしてここに? いや、和威は……結婚式はどうしたんだ? なんでそんな姿で」
藤臣自身、何を尋ねたいのかよくわからない。
だが、ひとつ思い当たることが浮かんだ。
「絵美のことを……聞いたんだな?」
愛実はゆっくりとうなずく。
瀬崎がホテルにまで押しかけ愛実に話したのか、それとも、瀬崎から聞いた和威が……そんなふうに考え込む藤臣に愛実から口を開いた。
「和威さんが、すべて弥生さまの企みだったと教えてくださいました」
「それで? 事実がわかっても事態は変わらない。俺がろくでなしなのは、今に始まったことじゃないからな」
藤臣は愛実に飛びつきそうになる気持ちを抑え、自嘲気味に言葉を繋ぐ。
「君のこともそうだ。この屋敷を、弥生婆さんと揉めることなく手に入れようと近づいた。憎かったんだ。憎くて悔しくて、すべてをこの手に納め、叩き壊してやりたかった。そんなことに巻き込むために、『愛してる』なんて君を騙した悪党なんだよ、俺は」
どちらかを諦めれば、美馬グループ内の力を失わずに済んだ。
だが、藤臣を父と信じる絵美を、突き放すことができなかった。
同時に、愛実も諦めたくなかったのだ。
ぎりぎりまで悩み、迷った挙句、弥生に降参して和威に後を託すことで妥協せざるを得なかった。
藤臣の迷いが愛実にも伝わり、結果的につらい選択をさせてしまったのである。