十八歳の花嫁
今の藤臣は“復讐心”を手放したことでスクラップ同然だ。
なのにそんな藤臣を、愛実はキラキラした瞳で見上げている。
「藤臣さん……あなたを待てなくて、ごめんなさいっ! 愛してるから、これ以上迷惑をかけたらダメだって思って。その結果、和威さんまで苦しめることになって……」
「和威を……苦しめる?」
愛実に言われて初めて、藤臣も気がついた。
藤臣が憎むことで美馬家に囚われていたように、和威もまた、弥生に従わなければならない、その思いに縛られていたのだ。
愛実に対する芽生えたばかりの恋情に、和威は自分を殺して弥生に従おうとした。
だが殺しきれず……土壇場で愛実に助けを求めたという。
「でも、どうしてこの場所が?」
「暁さんが電話で教えてくれました。周りをうろついていたマスコミも、魔法を使ったみたいに追い払ってくれて……。ここまで送ってくれたのは秘書の奥村さんです」
暁が手を回したのは納得できたが、まさか由佳まで愛実に手を貸すとは思わなかった。
その一方で、瀬崎はどこに行ったのだろう。
由佳が本社で瀬崎の行く先を当たったが、連絡が取れなかったと愛実から聞き、藤臣は頭を抱えた。
我慢や忍耐力は藤臣の倍もあるが、要領が悪すぎる。
「あの……藤臣さん、もう一度わたしたちを助けてください! お願いします」
それは、ほんの三日前と変わらぬ無垢なまなざしだった。
藤臣はそんな愛実をみつめながら軽く首を振る。
「君は、正気か?」
「あの……」
「俺は――俺は、君が和威との結婚を望むから、奴にすべてを譲って手放したんだ! もう何も残ってない。この上、どうやって君を助けろと言うんだっ!?」
藤臣の怒声は洋館内の空気を震撼させた。
卑怯な言い方は百も承知だ。
愛実にそうしてくれと頼まれたわけじゃない。誰も……いや、弥生以外は、藤臣が実権を手放すことを望んでなどいなかった。
それでも、憎しみと共にすべてを放棄したかったのは彼自身だ。
だからこそ、藤臣にはもう、誰かを守って立ち上がることなどできない。