十八歳の花嫁
愛実の声が震えだし、わずかに口元が歪んだ。
「藤臣さん――もう一度、愛してるって言ってください。あのとき……病院で絵美ちゃんに手を差し伸べたように。わたしにも、その手をください。そうしたら……藤臣さんのことはわたしが守ります」
愛実はそっと手を伸ばした。
微笑んだままの瞳から光が零れ落ちる。
ひと粒……ふた粒……光はポロポロ流れ落ち、闇に吸い込まれるように消えていく。
怖い――。
藤臣はそんな思いに囚われ、条件反射のように後退し、愛実に背を向けてしまう。
一度だって、欲しいものを手に入れたことがなかった。
大切なものを守れたこともない。いつも何かに怯え、半分以上諦めて生きてきた。
諦めることには慣れている。
最初から求めなければいいのだ。
愛実の手を取らなければいい。
あれほど激しく藤臣を突き動かした“憎悪”ですら消え果て――。
何がそれを消したのか、胸に浮かびかけたそのとき、藤臣の背中に愛実の手が触れた。
一瞬で背筋を電流が走り抜け、全身が硬直する。
「わたしのせいで……ごめんなさい。和威さんは……弥生さまから離れるとおっしゃってました。それと、信一郎さんや宏志さんとは結婚できません。あんなに大切にしていただいたのに……藤臣さんの望みどおりの愛し方ができなくてごめんなさい。迷惑ばかりかけて……どんなに謝っても許してもらえないかもしれないけど……。幸せになってください。わたしはずっと藤臣さんのこと、信じてます……さようなら」
背中で震える吐息が……。
愛を湛えた温もりが……。
彼の人生から離れようとした瞬間、藤臣は愛実の手を掴んだ。