十八歳の花嫁
捉まえた花嫁をしっかりと腕に抱き、藤臣は廊下を引き返した。
寝室のドアを体当たりするように開け、天蓋つきのベッドに押し倒す。
マットレスだけで、シーツも敷かれていない。内装工事中のせいか多少の埃は感じたが、今の藤臣を止める力にはならなかった。
愛実にいたってはそんなこと気にもならないようだ。
ただ真っ直ぐに、ひたすら藤臣をみつめている。
藤臣は深呼吸すると、クィーンサイズのベッドに座りなおした。
軽く前髪をかき上げ、余裕を取り戻した笑みを見せながら口を開く。
「最後のチャンスをやろう。逃げるなら今だ。――弥生婆さんに手を引かせ、普通の暮らしに戻してやる。本気になればまだそれくらいは……」
「いやっ!」
愛実ははじかれたように起き上がり、藤臣に抱きついた。
「もう離れたくない! 離さないで……わたしを」
激しい吐息が重なり、ふたりはもつれ合うようにベッドに倒れ込む。
「藤臣さん……わたし、三十年かけて、あなたに償いたい。だから……お嫁さんにしてください」
唇の隙間から、愛実のプロポーズが聞こえた。
藤臣は先を越されたことに苦笑しつつ、
「いや、ダメだ」
「どうして? 十八歳だから?」
「三十年分を償うなら倍は必要だ。向こう六十年間、俺から離れることは許さない」
ウェディングドレスの背中についたファスナーを引き下ろし、唇で白い首筋をなぞりながら答える。