十八歳の花嫁
静かなときが流れ、新しい愛がふたりを包み込む。
ふたりきりの世界が寝室に描かれ始め……。
直後――場違いとしか言いようのない軽快なメロディが、洋館内に響き渡った。
その音は、ぎりぎりまで張り詰めた静寂を台無しにする。
「藤臣さん、あの……携帯電話が」
「――無視しよう」
「でも、和威さんに借りた電話だと思うんです。和威さんにはお財布も借りたままで。あの」
藤臣は怒りに任せて愛実から身体を引き離し、玄関ホールから寝室までの廊下で携帯電話を拾った。
(何がなんでも愛実を抱かせない、という呪いがかかってるのか!?)
非科学的なことを考えながら、彼は手にした携帯に目をやる。
液晶画面に浮かぶ文字は予想どおり『瀬崎』だった。
ピッと通話ボタンを押した瞬間――
『和威様! そのまま愛実様と一緒にホテルからは一歩も出ないでください。東部の社長である藤臣様と連絡が取れしだい、今後のことを』
『連絡が取れないのはおまえだ、瀬崎。結婚式がどうなったのかも知らないのか?』
藤臣とて正確にはわからない。
だが、少なくとも愛実は藤臣の手に戻ってきた。
瀬崎はそんなことも知らず、どこをほっつき回っているのか。
『社長!? いったいどこにいらしたんですか?』
『それはこっちのセリフだ。私じゃなくても本社に一本連絡を入れれば』
『では、ご存じなんですね。私もたった今、聞きました。下手をすれば社長まで引っ張られ兼ねません。一刻も早く役員を招集して緊急会議を』
瀬崎の口ぶりから、ただならぬものを感じる。
『待て、瀬崎。和威と愛実の結婚が中止になった件じゃないのか?』
『中止!? では、和威さんが……。いや、今はそれどころではありません。社長、現本社社長である信二様が逮捕されました! 重役だった信一郎様にも逮捕状が出ています!』