十八歳の花嫁

「あら、同じドレスなのね。それとも今は新調する余裕もないのかしら?」


鏡の中で愛実の後ろにひとりの女性が立った。

シックなベージュのスーツを着て、胸元には涼しげなコサージュが揺れている。
藤臣の元秘書・由佳だった。

彼女は相変わらずグループ本社の重役秘書として働いている。


「由佳さん、わざわざありがとうございます」


愛実は笑顔を作って立ち上がった。


「結婚式も自宅の離れなんて。まあ、ここなら周囲の目は気にならないわね」

「わたしがお願いしたんです。せっかく改装していただいた離れの洋館を、思い出に残しておきたいからって」


今回の一件で、美馬家にはそれぞれに罰金や課徴金の負担がかかることになった。
いよいよ追い込まれる前に、と藤臣は土地家屋など資産の売却を決めた。美馬邸も母屋の一角を残し、後はすべて売却予定だ。

もちろん、藤臣が改装した洋館も例外ではなかった。

八月の最終週、藤臣と愛実の結婚式のため、洋館は華やかに彩られている。


「でも災難だったわね。成城の西園寺邸まで売却なんて……」


西園寺邸は弥生が会社名義で買い取っていた。
会社の資産として計上され、今回売却対象となった。


「仕方ありません。もともと一度は手放したものですから。思い出のある古い家財は引き取らせていただけましたし。それに住む所も幸い……」


今、なんと愛実の一家はこの美馬邸に住み込んでいた。

それには当然理由があり……一番の理由は、


「大奥様の具合ってどうなの? 発表は脳卒中ってことだったけど」

「えっと、比較的軽いもので、ただご高齢ですから」

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