十八歳の花嫁
「奥村さんにも本当にお世話になりました」
「そうね。今も専務のお世話をしてるって言ったら……どうする?」
「そっそんなこと……ありません! 絶対に!」
「ふーん。夜はちゃんとお世話してますってこと」
「いえ……それはまだ……」
実は“まだ”だった。
ひとつ屋根の下に暮らしているものの、藤臣と和威は忙しくてほとんど帰って来ない。
時間的な問題とは別に、愛実の母が藤臣との結婚に『ノー』と言いはじめたせいでもあった。
十八歳の愛実は母の許可なしには入籍ができない。
家や自由になるお金もごくわずかになり、母は親戚たちを巻き込んだ弥生との契約書の無効を条件に出してきた。
その手続きに、ここまで時間がかかったのである。
愛実が諸々の事情を由佳に告げると、
「へぇ、よく我慢してるわね? まあ、それどころじゃなかったのかもしれないけど」
含み笑いを感じ、必死に藤臣をフォローしようとする。
「わたしは構わないって言ったんです! でも、藤臣さんがちゃんと結婚するまで待とうって。なんだか……どうせ呪いがかかってて無理だろうから……とか、おっしゃって」
「呪い? 何、それ?」
由佳の不思議そうな声に、愛実も首を捻る。
「“優しくて誠実で思いやりがあって……人の心の痛みがわかる人”……か」
「え?」
愛実は由佳に問い返した。
「あなたの言った言葉、少しだけ信じる気になったわ。私も恋愛してみようかしら?」
「はい! あ……でも、藤臣さんは誘惑しないでくださいね」
愛実の心配そうな声に由佳は声を立てて笑った。