十八歳の花嫁

チャリティ参加作品―はじまりの朝―

【―はじまりの朝―】





『卒業式は終わったのに……本当にごめんなさい』


三月に入ってすぐ、美馬愛実はシュンとした声で北海道に住む夫、藤臣に電話をかけた。


『いや、君のせいじゃないんだ。尚樹くんの高校入学手続きもあるし……。そんな彼に、下ふたりの進級準備までさせられないだろう』

『ええ、そうなの。でも、本当は母がやるべきことで……ごめんなさい』


藤臣の理解が深ければ深いだけ、愛実は申し訳なくてどうしようもない気持ちになる。

愛実には三人の弟妹がいた。
すぐ下の弟、尚樹は今年、都立高校に入学が決まった。普通なら、子どもの入学や進級の準備は親の仕事だろう。
愛実たちの場合、母が亡くなった父の分もがんばらないといけないのに……。

ところが、母は愛実にまかせっきりで何もしようとしない。
昨年の四月、妹の真美が中学校に、末っ子の慎也が小学校に入学したときと同じだった。


昨年夏、愛実は当時美馬グループ本社専務であった藤臣と結婚した。
それと前後して、美馬家はさまざまなスキャンダルに見舞われた。そのほとんどが藤臣の義理の伯父で本社社長、美馬信二の責任であったのだが……。

結局、オーナー一族としての責任は、後継者であった藤臣がすべてとることになったのだ。
グループ内において、彼は本社の取締役会からはずされ、関連会社の社長という肩書きだけが与えられて、北海道への転勤が言い渡された。

美馬家の資産はギリギリまで整理することになり、信二らの行為に対する罰金や課徴金の支払いに当てられたのだった。

個人所有の別荘やマンション、美術品はすべて売却処分。美馬邸の敷地も切り売りされ、母屋だけが残された。
現在は使用人のほとんどに辞めてもらうことになり、母屋の体裁を維持するだけで精一杯だ。


その苦しい中、藤臣は愛実の祖母や母、弟妹たち全員の面倒までみてくれている。

彼は慣れない北海道で、しかも、ひとり暮らしを余儀なくされているのだ。
せめて妻である愛実がそばにいて、食事や掃除など世話をするべきだと思うのだが……。


愛実が黙り込むと、電話の向こうから明るい声が聞こえた。


『どうした、愛実? そんなに、俺に会いたかったのか?』

『それは……やだ、もう藤臣さんたら……』

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