十八歳の花嫁

少し艶めいた藤臣の言葉に、愛実の口もとはほころび、頬は薄いピンク色に染まる。


『年末に帰ったきりで、ばあさんの面倒も全部押しつけることになって……。本当にすまない』

『おばあさまのお世話は誰かがしなきゃ。藤臣さんのせいじゃないもの。お願いだから、謝らないで』

『だったら、弟たちの面倒をみなきゃならないのも君のせいじゃない。離れていても、夫婦としてお互いに支えあっていこう。わかったか?』

『……はい』


愛実は嬉しさのあまり、涙が込み上げてきた。

こんなに優しい男性と結婚できて、自分はなんて幸せなのだろう、と。

そのとき、少しだけ電話の向こうで藤臣が声をひそめた。


『愛実、ひとつだけ頼みがあるんだが……聞いてくれるかな?』

『ええ、もちろん! 藤臣さんのお願いならなんでも』

『じゃあ……キスしてほしい』


愛実は返事に詰まった。
今度は頬がピンク色ではなく、真っ赤になる。顔がポカポカと火照っているのがわかり、恥ずかしくて身の置き所に困った。

『キ、キ、キスって、あの』

『……好きだよ、愛実』


その言葉のあと、チュッと受話器から聞こえた。

リビングで電話をかけていた愛実は、慌てて周囲を見回す。
そして、誰もいないのを確認したあと、勇気を出して受話器に口づけた。

受話器は硬くて冷たかった。
それでも、藤臣に繋がっているのだと思うだけで、愛実は幸せな気分になれる。


『……あの、聞こえました?』

『ああ、東京に飛んで帰って君を抱きたくなった』

『代わりに、ほかの女の人、なんて思ったら……ダメですよ』

『わかってるさ。君に会えないのは寂しいけど我慢する。愛してるよ、愛実』

『わたしも。藤臣さんが大好き』


一度電話をかけると、なかなか受話器を置くことができない。
このあと、ふたりは三十分以上、たわいない話を続けたのだった。

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