十八歳の花嫁
四月の第一週に、藤臣のもとへ行く予定だった。
それを一週間早め、愛実はひとり女満別の空港に降り立つ。
(……さ、さむい……)
最初に浮かんだのがその言葉だった。
春はどこに行ったのだろう? と思える寒さだ。
通学用のコートを持ってきてよかったと、愛実は前をしっかり合わせて荷物を抱える。
愛実が網走市内のマンションを訪れたのは引っ越しのときだけ。あとは、藤臣が東京に帰ってきてくれるのを待っていた。
愛実も高校生だったのだから、仕方がないだろう。
それでも、場所はしっかりと覚えている。
愛実はバスターミナルに向かって歩きはじめた。
あとから思えば、ちゃんと連絡を入れてからくればよかったのかもしれない。
でもこのときは、少しでも早く藤臣の部屋に到着し、彼をびっくりさせてやろう、という遊び心もあり……。
バスは三十分足らずで網走駅前に着く。
その七分後には、愛実は見覚えのある五階建てマンションの前に立っていた。
外装はコンクリートの打ちっぱなし。
築二十年ということもあり、外壁はかなり汚れていた。
藤臣の部屋はここの四階にある。
六畳程度のキッチンと、キッチンより少し広い洋間。部屋はそれだけだ。美馬邸にある藤臣の私室より狭い。
(わたしたちだけ、今もあんな大きな家に住まわせてもらって……)
残ったのは母屋の辺りだけとはいえ、まだまだ広くて庭もある。
戸建の持ち家で暮らすのと、賃貸の集合住宅とでは気の遣いようが違うのだ。両方を経験した愛実は、それがよくわかっていた。
愛実はグッとボストンバッグの持ち手をつかむと中に入っていった。