十八歳の花嫁
「いくらかと聞いてるんだが?」
「あ、あの……五万……いえ、十万円」
「一晩にしちゃ高額だな。それとも、そんなに楽しませてくれるのか?」
愛実と同じ高校の友人が言っていた。
この辺りで立っていればすぐに声をかけられる。相手がお金持ちならば、一ヶ月分くらいのバイト代は一日で稼げる、と。ただ、詳しい金額までは聞かなかった。
思わず口にした金額だが、そんなに高額だったのだろうか。ならばいったい、何人の男性に身体を売れば借金分を稼げるのか……。愛実は気が遠くなる。
「は、初めて、なんです……だから」
「私は処女に価値が見出せない男なんだが。まあいい、本当だったら払おう。――来い」
十分後、ふたりは近くのラブホテルの一室にいた。
部屋の中は薄暗く、饐(す)えた匂いがする。男と女が交じり合って放つ淫靡な香りなど、このときの愛実にわかるはずもなく。彼女は奇妙な居心地の悪さを感じていた。
反面、チラリと横目で自分をラブホテルに連れ込んだ男性を覗き見る。
この三日間、愛実に声をかけてきた男性の中で一番のルックスだろう。とても道端で女子高生を買うようには見えない。
百八十センチ以上はありそうな長身で、スーツは間違いなくオーダーメイドだ。
黙っていても女性から近づいて来そうな、魅力的な男性だった。
(こんな素敵な人がどうして?)
胸の中で賛美しかけて、愛実は慌てて否定する。
理由はなんであれ、この男性はこれが違法とわかっていて愛実に金額を尋ねたのだ。とても、褒め称えるような行為ではない。無論、愛実も同罪だ。
そのとき、彼女は今回のことを教えてくれた友人の言葉を思い出した。
「あの……お金を先にもらえますか?」
「そのままシャワー中に消えるつもりか?」
「そんな……現金を持っているかどうか、わからないって。踏み倒されることもあるって聞いたんです。だから」
そんな愛実の言葉に、男性はあからさまに頬を歪めた。
「初めてのわりの詳しいんだな。あまりしゃべるとボロが出るぞ」
「お金がもらえないと困るんです。そのために、こんなことを……わたし」
彼は愛実に財布の中身を見せる。
そこには、彼女がお目にかかったことのない厚さで一万円札が入っていた。
「カードは好きじゃなくてね。現金を持ち歩く主義だ。ご満足かな?」
愛実は無言で首を縦に振る。
次はどうしたらいいのだろう……何もわからず迷っていると、不意に男性の手が伸びてきた。