十八歳の花嫁

愛実は、大きく傾いた心が美馬から離れて行くのを感じていた。


「ほ、ほかの方も、あなたと同じ提案をされるかもしれません!」


懸命に言葉を返した愛実に、美馬は初めて会ったときのように妖しく笑った。


「覚えておくことだ。私と最初に出会った場所を。君が私にねだった十万の意味を」


そこまで言うと、スッと耳元に口を寄せる。


「ワンピースのサイズはピッタリだと思うよ。この手が君のサイズを覚えている」


一瞬で愛実は真っ赤になる。
ラブホテルでの出来事が頭に浮かび、背筋に奇妙な感覚が走った。


「それは……あなたの提案を人に話したら、アノことを話すって脅してるんですか?」


慌てて一歩飛び退き、震える声で、でもしっかりと美馬を睨んだ。

すると、彼は否定とも肯定とも取れる皮肉っぽい笑みを作る。


「生まれたときから苦労知らずの三人が、こんな提案をするとは思えないな。仮に約束したとしても、守る気などないだろう。あの連中は勝った者が正義だと信じている。私以外の人間とふたりきりで会えば、君の貞操は保障できないぞ。これは脅迫じゃない、忠告だ」


弥生は美馬を孤児だと言った。
よほど、幼いころに苦労したのだろうか? その苦く切ない笑い方に、離れかけた愛実の心はほだされ、わけもなく惹かれた。

美馬は愛実に着替えるように言い、自分は廊下で待つと告げて部屋から出て行こうとした。

と、同時に、別の男性がリビングに入ってきたのである。

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