十八歳の花嫁

「なんだ、また抜け駆けか? 大川から聞いたぞ。どうやって調べ上げたのかは知らないが、彼女とすでに密会してたらしいな。で、もう、おまえさんのモノかい?」


一見すると美馬より若く感じる。
髪は天然パーマだろうか、緩くウェーブがかかっていた。薄いグレーのスーツを着た、細身の男性だった。


「ようこそ、美馬家へ。これはこれは……さすがに可愛いお嬢さんだ。僕も挑戦しがいがある。まさかもう、藤臣の予約済みなんてことはないだろうね? ああ、僕は美馬信一郎(しんいちろう)。この家の長女の長男、早く言えば正当な後継者だ。……奴は手が早いんだ、気をつけてくれよ」


信一郎は早口に捲くし立てる。
どちらかと言えばのんびりした愛実には、挨拶をする隙も与えてくれない。

彼は冗談交じりにニコニコとしており、明るく朗らかで優しそうな雰囲気は、美馬より数倍親しみやすそうに思える。
……が、眼鏡の奥の瞳に気づいたとき、愛実の身体は凍りついた。
その目には、弥生と同じ冷酷な光が宿っていた。

美馬も時折、冷たい目で愛実を見る。
目前でシャッターを下ろされたような気持ちになるが、怖くはない。

でも、この信一郎には恐ろしいものを感じるのだ。もし、この男性に美馬と同じ提案をされても、愛実はイエスと言えないだろう。


「西園寺愛実です。夕食にお招きいただきありがとうございます。あの……結婚とか、相続とか急に言われて……わたし」

「まあまあ、落ち着いて。おばあ様は叶わなかった恋を孫たちで成就させたいんでしょう。旧伯爵家のご令嬢を美馬家の嫁にしたいんだよ。言い方は悪いが、階級主義への仕返しの意味もあるんじゃないかな? 悪いようにはしないから、先の短い年寄りの頼みだと思って付き合ってやってよ。ひょっとしたら、瓢箪から駒ってヤツで、恋が芽生えるかもしれない。――だろ?」


愛実は声にならない声で「はあ……」とうなずいた。

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