十八歳の花嫁
「で、本当にもうやったのか?」
廊下に出るなり、信一郎は美馬の肩に手を回し尋ねた。
その口調は下劣極まりない。探るような目は、どうやら愛実の様子から男性経験を推し量れなかったようだ。
「偶然ですよ。彼女の困ったときに居合わせて、知り合っただけです」
「とぼけるなよ。おまえに偶然なんてあり得んだろう? ばあさんの思惑を事前に知って、あのガキを探し出したに決まってる。あんな小娘、おまえの手にかかったらチョロいもんだよなぁ」
無能な信一郎にしては的を射た答えだ。
美馬は変なところで感心しつつも、この家における彼の立場を弁えた言葉を返した。
「不埒な真似だけはなさらないでください。彼女は高校生です。宏志(ひろし)くんにも、それをしっかり言い含めておいてください」
宏志は信一郎の弟である。年齢だけは愛実に一番お似合いだ。だが中身は、兄と変わらぬクズ同然だと美馬は思っていた。
「なんだ。もう亭主気取りか?」
「そういう意味ではありません。弥生様が相続人に選んだお嬢さんです。無闇に傷つけたら、それだけで排除の理由にもなりうると思っただけですよ」
「それは処女を奪えばってことか? 未経験なら尚のこと、一度やれば言いなりだ。ばあさんに言いつけたりはさせないさ」
「今回はライバルがいて、アンフェアな真似はすぐにバレるということをお忘れなく」
「最もアンフェアが得意な奴に言われたくないね」
信一郎は細身だが身長は美馬と変わらない。彼は指先でトンと美馬の肩を突き、リビングのある一階から階段を上がり、姿を消した。