十八歳の花嫁
本音を言うなら、今日中に手を打たれるとは思ってもみなかった。
瀬崎の言ったとおり、デパートに呼びつけたのが不味かったのかもしれない。
だが、コソコソと呼び出したりしては、愛実は美馬を信用しないだろう。
デパート内部にまだ、弥生か信一郎の父・信二(しんじ)の犬がいるらしい。
愛実には今夜中に返事をもらい、弥生が相続に関する取り決めを発表すると同時に引き合わせるつもりだった。
信一郎の言うとおりアンフェアかもしれない。だが、最も確実な方法だ。
第一、今回のことは弥生の悪あがきにすぎない。
このまま指をくわえて見ていれば、間違いなくすべてが美馬の手に堕ちる。
それを阻止しようとした弥生の企みなのだ。
アパートの近くで会ったとき、愛実は美馬の提案を受け入れようとしていた。
(あと半日あれば、あの少女は俺のものだったのに……)
だが、どのみち愛実は美馬のものになる運命だ。
弥生は最初から長女の息子たち、信一郎と宏志の兄弟に継がせるつもりなどない。兄はロクでもない手段で女を手に入れることしか知らず、弟は風俗嬢としか関係できない腰抜けだ。
どちらに任せても、弥生の愛するこの邸は三ヶ月と持たず競売にかけられるだろう。
問題は、兄弟揃ってまともな神経をしていない点か。
金が絡めばレイプすら厭わない奴らだ。今時珍しいほど無垢な愛実である。万にひとつも妊娠でもすれば、言いなりに結婚を了承しかねない。
それくらいならいっそ自分が……。
(何を考えてるんだ、俺は)
美馬は軽く頭を振った。
こうなった以上、焦らず慎重にことを運ぶしかないだろう。
どのみち、弥生の本命は次女の息子・美馬和威(かずい)に決まっている。
二十五歳の和威からは、浮いた噂も悪行も聞こえては来ない。入社二年目の平社員だが、仕事も真面目で周囲の評判も上々だ。
弥生は必ず、愛実に和威を選ぶようプレッシャーをかけてくるだろう。
だが、肝心の和威自身は美馬を実の兄のように慕っている。その和威に愛実を近づけないことくらい、美馬には造作ないことだ。
美馬はゆっくりと振り返り、愛実のいるリビングの扉をみつめたのだった。