十八歳の花嫁

「ふーん、伯爵家のご令嬢なんて、どんな女が来るのかと思ったら……。とんだ赤ずきんちゃんにビックリだ。君みたいな子が見知らぬ男の妻に、なんてさ……伯爵家ってよっぽど金に困ってんだね」


とことん蔑んだ視線と言葉遣いだ。
ひょっとしたら、この場にいる全員に西園寺家の経済状況は知られているのかもしれない。

それでも席を立てない悔しさに、愛実はうつむく。


「と、言うことは見合いの男女は全部金目当てかい? 僕も見合い当日に女房とは初めて会ったし……」


おどけた調子で場を和ましてくれたのは、愛実を迎えに来た暁だった。

この暁の位置が今ひとつわからない。
“姻戚”と言っていたので“血縁”ではないのだろう。
弥生の孫娘の婿だろうか?

愛実はそんなことを考える。

直後、長倉弁護士は小さく咳払いして続けた。


「そのお隣が、弥生さまの次女・千穂子(ちほこ)さまのご長男、和威さまです。今年二十五歳になられました」

「はじめまして、美馬和威です。東部鉄道に去年入ったばかりで……信一郎さんや藤臣さんは社長だけど、僕は平社員です。東部新宿駅を利用されることはありますか?」

「たまに……新宿のような賑やかな場所に出かけることは滅多にないので」


つい最近新宿に行ったのは“売春目的”だった。
美馬と会ったときのことを思い出し、愛実の声は少しずつ小さくなる。


「ご利用ありがとうございます。では、東部新宿駅に降りられたときは駅事務室におりますので、お気軽にお立ち寄りください」


屈託なく微笑む和威に、愛実もホッとして「はい」と答えた。

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