十八歳の花嫁

四人の中で、この和威は裏表がなく、一番普通の男性に思える。
美馬ほど高身長ではないし、一瞬で人目を惹くような華やかさはない。だが、一重の目元が誠実そうで好印象の男性だった。


「最後が、すでにご存知のことと思いますが、弥生さまの三女・佐和子(さわこ)さまのご養子、藤臣さまです。今年三十歳になられます」


美馬はこの食堂に入ってから一度も愛実と目を合わさない。
何か事情があるのだろうと、彼女もできるだけ美馬を見ないようにしていた。
「……すまなかったね。こんなことになってしまって。君とはゆっくり始めようと思っていたんだが」
さっきは忠告と言いつつ、脅すような口調だった。そうかと思えば、また優しい言葉をくれる。彼女の目に映る美馬は、まるでカメレオンのようだ。

ふと気づけば美馬に視線が固定し、彼から目が離せなくなる。

しかし、そんな愛実の様子に宏志から声が上がった。


「へえ~そうなんだ! 兄さんはバージンを嫁にできるって張り切ってたけど、どうやら、もう藤臣のお古になっちゃったらしいよ。僕は、こいつとキョーダイはご免だなぁ」


唐突にぶつけられた卑猥な言葉に、愛実は吐き気すら覚える。最後の部分はよくわからないが、おそらくはセックスに関係した言葉だろう。
言い返すかどうか愛実は迷った。できれば美馬に何か言って欲しいが……彼はスッと顔を背けたのだ。

そのとき、美馬の隣の椅子が音を立て後ろに倒れた!


「いい加減にしてくれ、宏志! そういった言葉遣いは改めろと、何度言えばわかるんだ? 僕には不愉快で我慢ならない!」


おとなしく思えた和威が席を立ち、隣の宏志に向かって怒鳴りつけた。


「えぇーっ、何が悪いわけ? 僕はホントのことを言っただけだよ」


丸っきり悪びれた様子もなく、宏志はのほほんと答える。


「女性の前で……失礼だと思わないのかっ!? 信一郎さんも注意してください」


和威の視線は宏志を通り越し、信一郎に向かう。

< 48 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop