十八歳の花嫁
そのまま、両手首を掴まれ壁に押さえつけられる。
「あ……の。シャワーは」
「一緒に入るか?」
「い、いえ……それは」
「入って身体を洗ってくれるなら、余分に払うと言えば?」
「それは、それは……でも、あの」
男性の顔が愛実の目の前にある。唇はほんの数センチ離れているだけ。それは初めての経験で、視線が定まらない。
彼女は軽くパニックを起こしていた。彼が何を言い、自分が何を答えているのか……わからなくなるほど。
「本当に、男と付き合ったことはないのか?」
「あ、ありません」
「好きな男もいないのか?」
「そんなこと……」
通りすがりのこの人になんの関係があるのだろう。
言い返そうとした愛実の髪に彼の指が触れた。
ふと気づけば、愛実は両手を頭の上で組まされていた。男性は片手で彼女を壁に押し付けている。ただそれだけで、彼女は身動きも取れない。
愛実はその力強さに、小さな恐怖と不思議な感動を覚えていた。
父は穏やかで物静かな人だった。間違っても、今、愛実を押さえ込んでいるような、男性的魅力に溢れたタイプではない。他に身近な異性と言えば、弟たちくらいだろう。
そんな彼女が、薄いブラウス一枚隔てただけで男性に身体を押し当てられている。
初めて会った人なのに、汚らしさは微塵も感じない。それどころか、水泳の授業で指導と称して腕や腰に触れる体育教師のほうが、よほどいやらしく感じるくらいだ。
愛実はそんな自分に戸惑うばかりで……。
「髪は黒だな。染めないのか?」
愛実はフルフルと首を横に振った。
男性の顔が髪に寄せられ、そのまま首筋に唇が触れ……。毛先をもて遊んでいた指が、ブラウスの上から胸の周囲をなぞった。
「胸は、そこそこあるんだな。肌も綺麗だ……だが、あんな場所に立つなら化粧くらいしたほうがいいんじゃないのか?」
「それは……校則で、禁止されていて」
低く掠れるような声が耳の奥で響く。愛実は膝から崩れ落ちそうだ。
だが次の瞬間、浮かれた心に冷水を浴びせられた。
「売春は禁止されてないのか?」
喉の奥に氷を詰められたようだ。
ひと言も言い返せない愛実を嘲笑うかのように、彼はスカートの中に手を入れた。