十八歳の花嫁
「お願いします。どうしても美馬さんに会いたいんです。先日もこちらに来させていただきました、西園寺と申します。お取次ぎください」
「そうは申されましても……」
引っ越しのことを聞き、愛実が駆けつけたのは東部デパートだった。
美馬家を訪ねるのはどうも敷居が高い。
とくに、信一郎と会うのは怖い。あれからまだ連絡はないが、母が大金を受け取った以上、ふたりきりで会わないわけにはいかないだろう。
そして、弥生と顔を合わせるのも気が重かった。
東部新宿駅に行くことも考えたが、やはり、愛実は藤臣を頼ってしまったのである。
「申し訳ございませんが、美馬社長は出張中でございます。今日、明日とこちらには出社しない予定と聞いております」
「……連絡は取れませんか? 携帯番号が教えていただけないなら、そちらでかけてくださいませんか? どうしても連絡が取りたいんです! お願いします」
先日はすんなり通してもらえた受付が、今日は出張中で居ないの一点張りだ。
とうとう警備員が近づいて来て、愛実は仕方なく受付を離れた。
連絡先はもちろん、出張先も帰る予定すら教えてはもらえず、愛実は途方に暮れる。
やはり、美馬の邸に行くしかないのだろうか。
いったい、この引っ越しは誰の指示なのか……愛実にはそれすらもわからないのだ。
「愛実さん? 西園寺愛実さんですね?」
肩を落としデパートを出ようとした愛実は、名前を呼ばれ振り返った。
そこには眼鏡をかけた三十代の男性が立っていた。
「私は美馬藤臣の秘書を務めます、瀬崎と申します。愛実さんのことは、美馬家の一件を含めて社長より伺っております。失礼ですが、何かお困りでしょうか? 私でよければお力になりますが」
瀬崎の言葉に愛実は縋りついたのである。