十八歳の花嫁

彼女が連れて行かれたのは、八階のレストランだった。
コーヒーとカフェオレを頼み、しばらくすると支配人と書かれた名札の男性がやって来た。


「瀬崎さん、お疲れ様です。今日はお仕事ではなくプライベートですか? 珍しいですね、女性連れなんて」

「いや、社長のお知り合いのお嬢さんでね。少し使わせてもらうよ」

「ええ、ごゆっくりどうぞ」


レストランの支配人は丁寧に頭を下げ、テーブルから離れた。

そのとき、愛実は気づいたのだ。瀬崎がデパート内のレストランに連れて来た理由を。

瀬崎は“美馬家の一件”を知っていると言っていた。
それは当然、縁談のことを指すのだろう。

微妙な立場にある愛実のために、藤臣の秘書であることをさりげなく証明しつつ、誤解を招かないように知人の目がある所を選んだのだ、と。

候補者以外で、大川暁はとても親切そうに見える。
美馬とも険悪そうには見えず、相談してもいいのかもしれない。

だが、何かが愛実に二の足を踏ませるのだ。

でもこの瀬崎は、不思議な安堵感をもたらしてくれる。


「あの、瀬崎さん、でしたよね。実は……」


愛実は引っ越しの件を彼に話し始めた。

< 58 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop