十八歳の花嫁
彼女は男の子を欲しがる夫のために、様々な努力をしたが恵まれなかった。
そんな彼女にとって和威は息子も同然だ。
ただ、和威は次女の息子で父親もいない。しかも、信一郎より八つ、藤臣より五つも年下だ。
おまけに一志が残した遺言のせいで、和威は益々後継者から遠のいてしまい……。
十歳の少年は従兄弟たちにいつも苛められていた。
そこに登場したのが藤臣で、従兄弟たちの標的は養子の藤臣に変わった。
ところが、藤臣は和威とは違う。幼いころから大人の都合で、数々の辛酸をなめて来ている。ひと筋縄でいく少年ではなかった。
結果、美馬家では、“信一郎・宏志”対“藤臣・和威”といった構図ができ上がり……。
以来十五年、和威は藤臣を頼りにしてきた。
弥生が藤臣に冷たく当たる分、和威は“血の繋がらない従兄”を思いやって来たのである。
和威は、藤臣が自分と同じ私生児で孤児だと思い続ける限り、味方でいるだろう。
あの弥生が藤臣に関する真相を話すはずがない。他の連中にしても同じこと。
いずれ、和威が重役に名を連ねたときには、他の重役から知れるだろうが……そのころには会社は藤臣の物となっている。
『社長、愛実さんには携帯電話をお渡ししておきました。他に何かございましたら……』
『ばあさんが信一郎を止めてくれたのは幸いだ。ただ、母親を抱き込むことができないとなると……奴は性質(たち)が悪い。充分に気をつけろ』
『はい。了解しました』
別の意味で性質が悪いのは瀬崎かもしれない。
そんな思いを藤臣は呑み込んだ。
『では、お帰りの時刻に空港までお迎えに上がります』
『いやそれは……』
「ねぇ~藤臣さん、まだぁ~」
隣のベッドルームから催促の声が上がる。
説教好きな瀬崎の耳に入ったに違いない。
それを思うと藤臣は舌打ちした。