十八歳の花嫁
『社長……しばらくは女性関係を慎むというお話では?』
『仕方ないだろう。本店と香港支店のイメージモデルを共演させるのがコンセプトなんだ』
『それと、モデルが社長の寝室にいらっしゃるのと、どういうご関係が?』
『瀬崎、俺の私生活の管理は頼んでない。言われたことだけやればいい』
電話の向こうから、深いため息と五秒ほどの沈黙が流れてきた。
『わかりました。では、素晴らしい夜をお過ごしください。失礼します』
言うなり電話はプツンと切れた。
(ったく! なんなんだ! 社長より先に電話を切る奴があるかっ!?)
苛々としながら、美馬は携帯電話をソファに叩き付けた。
長瀬久美子(ながせくみこ)――現在二十六歳、そろそろ下り坂のモデルだ。
一七〇センチの身長とスレンダーなボディライン。売り物の身体を惜しげもなく晒して、女がベッドに横たわっている。
学歴はないが損得勘定には長けており、与えた物の金銭的価値によって、腰の振り具合が変わってくるわかり易い性格の持ち主だ。
イメージモデルとしての専属契約を結んで二年目、同じ時に愛人契約を結んだ関係だった。
「ねぇったら、藤臣さん」
「うるさいぞ。電話中に邪魔をするなと何度言えばわかるんだ」
「だってぇ。ね、今夜が香港最後の夜でしょ? 一度くらい楽しみましょうよぉ」
ベッドから下りて、久美子は藤臣の腕に手を回し、甘ったるい声で擦り寄った。
その直後、彼は久美子を力任せに振り払う。
「俺に命令するな! そんなにやりたければ、勝手に男を漁って来い。但し、東部デパートの仕事はこれで終わりだ。代わりのモデルはいくらでもいる。それを忘れるな」
藤臣の剣幕に久美子はすごすごと引き下がった。
彼の手には愛実の肌の感触が残っている。
それを打ち消すことができない藤臣だった。