十八歳の花嫁
彼は無言で上着を脱ぎ、愛実の肩にかけ……ユラリと立ち上がる。
「そんな怖い顔するなよ。おまえだって抜け駆けしたんだ。お互い様じゃないか……」
全裸の信一郎は周囲を見回し、床に落ちたバスローブを手繰り寄せようとした。
直後、信一郎の絶叫がモーテルの個室に響く。
床に伸ばした信一郎の手を、藤臣の革靴が踏みつけたのだ。
藤臣は体重を乗せ、煙草の火を消すように踏みにじる。
信一郎がもう一方の手で藤臣の足をどけようとした瞬間――今度は顎を蹴り上げた。信一郎はもんどりうって床に倒れ込む。
「社長! 落ち着いてくださいっ! 社長!」
「きゃっ!」
背後で瀬崎が制止する声と、愛実の悲鳴が聞こえた。
刹那――記憶の底から、母の悲鳴が藤臣の耳にこだまする。
ほんの短い間、父と呼んだ男が母を殴り、母を庇おうとした藤臣も殴った。
そんな母も藤臣を見るたび「おまえを産んだせいで」そう罵った。
信一郎の姿がその男と重なる。
母にたかり、母を殴りつけ、言いなりにさせたあの男に。
八つの少年に、母を救うことはできなかった。
だが、今は違う。
ベッドの傍らにセットされたビデオカメラが目に映り、藤臣は三脚ごと掴み、信一郎の上に振り翳(かざ)した。