十八歳の花嫁
藤臣は二~三度深呼吸すると、
「貴様の犯罪の証拠はすでに掴んでる。俺がバックアップすると言ったら、告訴するという女が何人もいる。弁護士には金を掴ませているようだが、公になると知ったら奴も飼い主(ばあさん)に報告するだろう。――貴様は終わりだ」
冷静さを取り戻し、従兄に向かって言い捨てた。
信一郎も嫌味のひとつくらい言い返してくるかと思ったが、どうやら、それどころではないらしい。
「わ、わかった……もう、しないから……頼むから、救急車を呼んでくれ。手の骨が砕けたみたいだ」
泣きながら縋る様は見苦しく、藤臣は信一郎から顔を背けた。
「瀬崎、呼んでやれ。ここの始末を頼む。病院に弁護士の長倉を呼んで、念書を書かせろ」
「む、むりだ! 骨が……」
「右手がダメなら左手で書け。それとも、その粗末な息子を潰されたほうがよかったか? 信一郎、示談の慰謝料と口止め料は安くないぞ。美馬の家を追われたくなければ、黙って払うんだな」
それだけ言うと、藤臣は背中にしがみ付いている愛実をすくうように抱き上げた。
「あ、あの……あの……」
「何も言うな……言わないでくれ」
美馬は大股で部屋を横切り、覗き込むモーテルの従業員をひと睨みで散らせる。
彼はポルシェの助手席に愛実を乗せ、あっという間に走り去った。