十八歳の花嫁
ソファからデスクに戻ろうとしたとき、その背中に和威は言葉をぶつけた。
「藤臣さん。信一郎さんのことで、妙な噂もあるんです。彼を襲ったのはあなたで、愛実さんを連れ去った、と。彼女は、本当はあなたとの結婚を望んでいない。承諾させるために、あなたは彼女を監禁している……」
和威の言葉に藤臣も驚いた。
どうやら表立って手の打てない信一郎側が流した噂らしい。
それは一部事実だ。
愛実はあの日以降、家には戻っていない。弟妹に心配をかけないため、と藤臣が持ちかけ、顔の怪我が完全に治るまでホテルで療養中である。
愛実の母親にはそれなりの金を握らせた。
弟の尚樹には、美馬の家は金持ちで藤臣との結婚に反対する人間がいる。どうか内緒にしていて欲しい……そんな電話を愛実にかけさせてある。
尚樹は愛実の不在中に訪れ、母親に金を渡した信一郎のことを毛嫌いしていた。そして、姉が好きな人と結婚できるなら、と協力を約束したのだ。
「実際、愛実さんは今週になって一度も高校に通ってない。家に連絡しても、旅行に出た、と言われるだけで」
「家族がそう言うなら問題はあるまい」
「そんなっ! いくらなんでも不自然でしょう!?」
食い下がる和威に、藤臣は見下ろしながら言った。
「和威、真相が知りたいなら自分で調べろ。知ったところで、というなら、無駄な詮索はするな。誠意と正義だけでは人も会社も動かないぞ。愛実を欲しければ、俺から奪ってみろ。おまえにできるなら、な」
いつもと違う藤臣の様子に、和威は席を立ち一礼してどのノブに手をかけた。
「和威――」
名前を呼ばれた瞬間、彼の肩がピクリと動く。
「暴漢には気をつけろ」
あとに続く言葉に、和威は食い入るようなまなざしで藤臣を見たのだった。