十八歳の花嫁
愛実の西園寺家はお金に困っているという。
弥生は和威に、
『確かな形で援助してあげたいのよ。わたくしにとって、初恋の方のお孫さんですもの。それにね、愛実さんにお会いして、楚々としたよいお嬢さんだと思いました。年のころも和威さんとお似合いでしょう。この家はわたくしが生まれ育った家です。実の孫である、あなたに受け継いでいただきたいの。それに……』
祖父の遺言状の内容を知らされていない和威には、そこまで祖母が必死になる理由がわからない。
遺産は祖母と三人の娘で分け合うはずだ。
様々な事情で祖父の名義もままになっているとはいえ、娘の誰かに相続させれば済むことではないだろうか。
思い悩む和威の耳に窓の外からエンジン音が聞こえた。
3600cc水平対向6気筒――タイトでスタイリッシュなポルシェ911GT2のエンジン音。
藤臣は一時間も家におらず、出て行くつもりらしい。
この様子だと、どうしても必要な書類があり戻って来ただけのようだ。
和威の耳に弥生の言葉が続いた。
『それに、藤臣さんが愛実さんに何をするか……。藤臣さんの女性関係はわたくしも知っています。ねぇ、和威さん。せめて愛実さんに、お金のことは心配しないようにお伝えなさいな。早まった決断はしないよう――あなたもね』
財産ではなく愛実が欲しい、藤臣の言葉は本心からだろうか?
暴漢には気をつけろ――あれが脅迫だとしたら……。
和威は部屋着を脱ぐとスーツに着替えた。