十八歳の花嫁
第4話 誘惑
第4話 誘惑
ボートネックのAラインワンピースは、愛実がうつむくと藤臣にとって拷問だった。
高い位置から見下ろすため、どうしても真っ白いうなじが目に入ってしまう。
彼はわざとらしく視線を逸らせ、腕時計に目をやった。
九時を少し回っている。美馬邸からホテルまで車で約三十分、帰宅ラッシュに巻き込まれたら一時間か。
それが、家を出て二時間余りが過ぎていた。寄り道の理由は、言わずもがなであろう。
藤臣は愛実と一定の距離を取ったまま声をかけた。
「じゃあ、あらためて……ただいま。夕食はまだかい?」
愛実は恥ずかしそうに彼を見上げ、
「あ、お帰りなさいませ。……はい。もう、九時を回ってたんですね。美馬さんは、夕食はお済みですよね?」
「いや、まだだ。ルームサービスで何か取ろうか」
藤臣は立ち上がり、電話の前に行く。
電話機の横には館内ガイドが置かれ、その下にルームサービスのメニューがあった。それを手に取り、愛実に見せようとしたが、
「あ、わたしはハヤシライスで」
その言葉に藤臣は小さくため息をつく。
「……ルームサービスと言えばカレーライスかハヤシライスだが。君の好物か? それとも料金を気にしているのか?」
メニューのトップにあるその二品は他のメニューに比べて格段に安い。
「い、いえ、後は豪華なお食事ばかりで……量が多くて」
藤臣が軽く「残せばいい」と答えると、愛実は向きになって反論した。
「そんなもったいない! 学校も仕事にも行かず、家事も放り出してこんな所でのんびりしてるのに」
「その原因を作ったのは私の従兄だ。君は遠慮せず、傷がよくなるまでここにいていいんだ」
愛実は申し訳なさそうに身を縮め、「はあ」と答えた。
ボートネックのAラインワンピースは、愛実がうつむくと藤臣にとって拷問だった。
高い位置から見下ろすため、どうしても真っ白いうなじが目に入ってしまう。
彼はわざとらしく視線を逸らせ、腕時計に目をやった。
九時を少し回っている。美馬邸からホテルまで車で約三十分、帰宅ラッシュに巻き込まれたら一時間か。
それが、家を出て二時間余りが過ぎていた。寄り道の理由は、言わずもがなであろう。
藤臣は愛実と一定の距離を取ったまま声をかけた。
「じゃあ、あらためて……ただいま。夕食はまだかい?」
愛実は恥ずかしそうに彼を見上げ、
「あ、お帰りなさいませ。……はい。もう、九時を回ってたんですね。美馬さんは、夕食はお済みですよね?」
「いや、まだだ。ルームサービスで何か取ろうか」
藤臣は立ち上がり、電話の前に行く。
電話機の横には館内ガイドが置かれ、その下にルームサービスのメニューがあった。それを手に取り、愛実に見せようとしたが、
「あ、わたしはハヤシライスで」
その言葉に藤臣は小さくため息をつく。
「……ルームサービスと言えばカレーライスかハヤシライスだが。君の好物か? それとも料金を気にしているのか?」
メニューのトップにあるその二品は他のメニューに比べて格段に安い。
「い、いえ、後は豪華なお食事ばかりで……量が多くて」
藤臣が軽く「残せばいい」と答えると、愛実は向きになって反論した。
「そんなもったいない! 学校も仕事にも行かず、家事も放り出してこんな所でのんびりしてるのに」
「その原因を作ったのは私の従兄だ。君は遠慮せず、傷がよくなるまでここにいていいんだ」
愛実は申し訳なさそうに身を縮め、「はあ」と答えた。