勇気を出して、空を見上げて。

護りたい男の子。


誰もいない家から大してない荷物を纏めると、段ボール一つも満たない量だった。


その荷物を知り合いの車に乗せてもらって、何の感慨もなく家のドアを閉める。


「────いいの?」

「何が」


分かってるくせに、という声は黙殺した。


足りないものは買い足すつもりだった。布団とか食器類、そういうものは全部。


あの家から何か持ってくること自体、嫌だ。


思い出なんて何もない。あるとしたらあの子とのくらい。


誰も帰ってこない家に、いつまでも帰る義務なんてないと思っていた。


大学進学を機に、一人暮らしをする。そのつもりでいた俺の目論みは外れた。


きっかけは大学の合格発表。


そこで仲良くなったやつと、ルームシェアすることになった。


いくらバイトをしたとしても、一人暮らしで大学生活をしながら家賃やら電気代水道代やらを払うのはちょっと厳しいかなと思っていた矢先だ。


思わぬタイミングで降って湧いてきた話に一も二もなく飛びついた。


その足で借りる部屋を決めた。家賃、光熱水費諸々は折半。家事も全部役割交代制。


そこまで決めてしまって、連絡先を交換して別れた。


その翌日の話。俺はさっさと荷物を纏めて、生まれ育った家を出た。


相手も早いうちに引っ越してくると言っていた。でもあと数日は一人だろう。


誰かと一緒の生活を、したことがない。


嗚呼でも、一度だけ。


「星、着いたぞ」

「サンキュ。じゃあまたな」

「折角ルームシェアすんだから落ち着けよ」


それを笑って流して荷物を受け取った。


管理人から鍵を貰って、決めた部屋に足を踏み入れる。


ちょっと広いけど、立地条件や築年数やらで安く借りることができた。


六畳のフローリングが二部屋に、リビングとダイニング。コンロはガスで二口。トイレと風呂は別。


エアコンはついてないけど、それくらいどうってことない。


とりあえず布団が必要だったけど、それより先に俺にはやりたいことがある。


適当に玄関から見て右手の部屋に一箱しかないダンボールを放り投げた。壊れるものは入っていない。


何もない部屋を一瞥して、持ったのは財布と携帯。


コンビニにでも寄って、何か買っていくか。

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