勇気を出して、空を見上げて。

部屋を出て鍵をかけると、俺は周りの風景を見渡した。
 

知らない、街だ。


これから俺が生きていく、場所。


何もないけど、上等じゃん、と呟く。


何もなくたっていい。今はまだ。そのうちきっと、何かしらできる。


歩いてコンビニを探し回って、ちょっと高めのスイーツを二つ。


俺の分と、あの子の分。


あの子と会うのは久しぶりで、次がいつになるか、分からないから。


あの頃より家が遠くなった。


でも、あの子が幸せなら距離なんて構わない。


それがあいつのただ一つの願いだったから。俺はそれが叶えばいいと、願うしかできないけど。


それでも願うと、誓う。


俺はあの子に対して、そして俺の親友に対して、何もしてやれなかったから。


きっとそんなことないって言うんだろうな。


でも、そういうわけにもいかないんだよ、────ユイ。


電車は使わない。あの子に会いに行くときは使わないって、いつの間にかそうなってたから。


いや、ちょっと違うか。


そもそも最初は電車を使う距離じゃなかった。だから、電車を使うっていう選択肢が思い浮かばない。


バイクなんて使ったら、あの子を護り通した親友にぶっ飛ばされそうだ。


「真湖」

「星お兄ちゃん!」

「久しぶりだな」

「うん!」


あの子────真湖は、家の前で俺のことを待っていた。


行くと言っておいたから、待っていたのだろう。


その手を握って引っ張り、近くの公園のベンチに二人で座る。隣に座った真湖を膝の上に乗せると、照れくさそうな顔をして笑った。


コンビニの袋を真湖に持たせ、後ろからその華奢な背中を抱き締めた。


肌の露出する部分が冷たい。


果たしていつから待っていたのか。


「真湖、学校楽しいか?」

「楽しいよ! あとちょっとで高学年になるからね、わたしもお姉ちゃんになるの」

「そっか、真湖もお姉ちゃんか」

「そうだよ。わたし、お兄ちゃんみたいになれるかなあ」

「真湖なら、なれるよ」


三月はもう春とはいえ、じっと外で待っているにはまだ寒い。


その中で、外に出て俺を待っていた真湖。


単純に俺のことが待ちきれなかったから、と思えたらどれだけ楽だったか。

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