勇気を出して、空を見上げて。

こんなに冷たくなるまで外にいて、普通なら親が中に入れるだろうに。


「真湖、寒くねえか?」

「……うーん、」

「嘘吐いたら針千本な」

「寒い、です」


よく言えたな、とその頭を優しく撫でた。


へへっと笑う真湖に、何もしてやれないことが悲しい。


腕の中の真湖を更にぎゅーっと抱き締めてやると、真湖が嬉しそうに笑い声をあげた。


その肩に顎を乗せて、小さく落とす。


「ごめんな、真湖」

「……ん? なに、星お兄ちゃん」

「いや何でもねえ。暖まったか?」

「うーんとねえ、まだー。もう少しだけこうしてて!」

「はいよ」


真湖のお願いならきかない理由はない。


そのまま暫く二人で何も話さないでいた。じっと互いの体温を感じて、安心する。


真湖に会う度、実感してしまう。


真湖は助かったこと。親友が護り通せたこと。その代わりに、多くのものを失ったこと。


子供だった自分を恨んだ。


何もできなかった自分が嫌いになりそうだった。


でも、俺を掬い上げたのは他でもない親友と、その妹。


この兄妹に、俺は助けられてばかりだ。


「星お兄ちゃん」

「なんだー?」

「わたしね、さみしい」

「……真湖」


本音を零した真湖に、少しだけ驚く。それ以上に、本音を話さなければならないほど状況が悪いのかと危惧する。


「星お兄ちゃんといっしょにいたいよ」

「……そう、だな」


俺も、真湖と一緒にいたいよ。


だけどそうもいかない。まだ高校生の俺に、もうすぐ大学生になる俺に、まだ小学生の真湖を養う経済力は正直、ない。


あったら、すぐにでも引き取るのに。


新生活が始まって忙しくなるのに、真湖を引き取って寂しい思いをさせるのは嫌だった。


たとえ、今が寂しかろうと。


絶対に、その気持ちがいつか役に立つって。


親友ならきっと、そう言って真湖を諭すと思ったから。


「いつか、迎えに行くよ」


それまでは、俺が会いに来る。


「真湖、俺、ルームシェアすることになったんだ」


相手には、事情を話そうか。


同じ学部を目指した者同士、その辺りの配慮くらいはできるだろうから。


真湖に不利にならないように、真湖が傷つかないように、嘘を交えて。

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