勇気を出して、空を見上げて。
胸に顔を押し付けてやり過ごしていると、勘違いしてくれた相手があたしの尻を撫で上げる。
慣れたその手つき。あたしも慣れているから、相手の喜ぶような反応をしてやる。
その後に、押し付けていた顔を上げて相手と視線を合わせた。
「見つかるよ?」
「兄妹にしか見えないよ」
「……、」
「ほら、言ってみ?」
「やだ」
「ツンデレ」
そういうの、嫌いじゃない。
ふっと笑う声とともにそんなことを言われた。
反応しないでいると、肩と膝裏に腕を差し込まれて横抱きに抱き上げられる。
近くなった整った顔を容赦なく睨みつけて、降ろして、と冷たい声を出した。
鼻で笑って一蹴されたけど。
「怪我してるでしょ」
「……だから何?」
「歩けるの?」
「そんくらい歩ける」
「嘘ばっか」
痛いんでしょ、と図星を突かれた。
「ほら、やっぱり」
「……うるさい」
「姫抱きと子供みたいな抱き方。二者択一」
「……後者」
「つまんないねー」
「兄妹、なんでしょ?」
得意げな顔を向けた。
あははっと声を上げて相手が笑う。
よく笑う、ひと。
「……人生楽しそうだね」
「楽しいよ? ……ココのお陰、で」
「早く降ろしてよ」
連れないね。
抱き直したあたしを、相手が車の中に乗せる。素直に助手席に収まったあたしはフードを深く被り直した。
警官の姿は、なくなってはいない。
「慎重」
「知ってるくせに」
笑い声が、また弾ける。
だから嫌いだ。大嫌い。
でもあたしは、離れることはできない。
「いくら?」
「……五、かな」
「お兄ちゃんて言ってくれたら六にしてあげる」
「……おにい、ちゃん」